Shohei Daily Lab

55本塁打の年でも、50-50の年でもない。なぜ大谷翔平は2022年を「ベスト」と呼んだのか

2026/5/3


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こんにちは。今日はどんな数字が見えてくるか、一緒にのぞいてみましょう。

— meimei 🐰


2026年4月、ロサンゼルスでの会見で、大谷さんはこう語ったそうです。

「2022年ぐらいが一番自分の中ではベストなシーズンだったなと思っている。稼働率、体のしんどさも含めて、そこは違うレベルではあったので。それが今年もしっかりとできたらいい」

ちょっと不思議な言葉だな、と思いました。55本塁打を打った2025年でもなく、50-50を達成した2024年でもなく、本人が「ベスト」と呼んだのは、ホームラン34本にとどまった2022年。

派手なシーズンが他にもいくつもあるのに、なぜ2022年なんでしょう。

大谷さんの言葉の中心にあったのは、稼働率、体のしんどさ、そしてシーズンを走り切った実感でした。つまり彼にとってのベストは、打者として最も派手だった年でも、投手として最も鋭かった年でもない。投げ、打ち、負荷を引き受けながら、どれだけチームに貢献できたか――その「総量」のことだったんですね。

だから2022年は、いまの大谷翔平を測るときの 基準点(ベースライン) として、わたしの中でずっと特別な年です。

派手さでは語れない、「規定投球回」の話

2022年の大谷さんは、投手として28試合に登板して 166イニング を投げました。ERA 2.33、奪三振219、与四球44、15勝9敗。

メジャー昇格後、初めて 規定投球回に到達 したシーズンでもあります。

投球イニング

位置づけ

2018

51.2

メジャー投手デビュー年

2021

130.1

二刀流復活、ただし規定未達

2022

166

規定投球回到達

2023

132

8月に右肘靱帯損傷で離脱

2024

0

リハビリで打者専念

2025

47

投手復帰途上

打席数でも投球回でも、両方規定に到達したのは MLB史上初のこと。「二刀流」という言葉はそれ以前から使われていましたが、シーズン全体を通じた負荷と結果の両面で、その言葉が初めて数字に裏づけられた年 が2022年でした。

派手さで言えば、2021年の46本塁打や2024年の54本塁打のほうが見出しになりやすいんです。でも、投手としてローテーションを守りながら、打者としても主軸を担い続ける――その意味では、2022年がいちばん重いシーズン でした。

投手として、賞レースの中心に近づいた年

2022年のア・リーグ Cy Young 賞で、大谷さんは 4位 に入っています。受賞は Justin Verlander、続いて Dylan Cease、Alek Manoah、4番目に大谷さんの名前。

この順位の意味は、2021年と比べるとよく分かります。2021年の大谷さんは130.1イニング、防御率3.18、奪三振156。投手としても十分にハイレベルで、All-MLB Second Team に選ばれる水準でした。ただし、Cy Young の最上位争いに入るには、まだ一段上が必要でした。

2022年は、その一段を越えた年。166イニング・防御率2.33・奪三振219。投球回を増やしながら防御率を下げ、奪三振も大きく伸ばしたことで、彼の見え方は変わりました。「二刀流の象徴」から「先発投手として賞レースの中心に近づく存在」へ。

Cy Young 賞に明文化された応募条件があるわけじゃありません。それでも、先発投手として賞を争うには、シーズンを通じて投げ抜いた証明 が強く求められます。2022年の大谷さんは、そこに初めて踏み込んだ年でした。

投げるほど、打撃に負荷がかかる

ただし、2022年を基準にするなら、光だけを見ていたらいけないとも思います。この年は、二刀流の完成形であると同時に、二刀流の代償が最も見えやすい年 でもあったから。

指標

2021

2022

2023

2024

2025

投手 IP

130.1

166

132

0

47

平均打球速度

93.6 mph

92.9 mph

94.4 mph

95.8 mph

94.9 mph

Barrel率

22.3%

16.8%

19.6%

21.5%

23.5%

Hard-Hit率

53.6%

49.8%

54.2%

60.1%

58.7%

本塁打

46

34

44

54

55

xwOBA

.410

.387

.428

.444

.425

2022年は、投手として最も多く投げた年 であると同時に、打球の質を示す数字は2021年以降でいちばん控えめ でした。Barrel率は前年の22.3%から16.8%まで落ち、Hard-Hit率も53.6%から49.8%へ。平均打球速度も92.9mphにとどまっています。

これは「不調」ではなく、負荷の配分 と読むべきだと思います。166イニングを投げきるために体力と回復力を投手側に振り向ければ、打撃で常に最大出力を出すことは難しくなる。当然のことなんですよね。

その対照として、投球回ゼロだった2024年と、47イニングにとどまった2025年に、平均打球速度・Barrel率・Hard-Hit率・本塁打数が大きく伸びていることは、わかりやすい根拠になります。

つまり2022年は、「打者・大谷翔平が最も暴れた年」ではない。むしろ、打者としてのピーク出力と、投手としてフルシーズンに近い責任を背負うことの トレードオフが、いちばんはっきり見えた年 でした。その事実こそ、このシーズンの価値を大きくしています。

大谷さんが「ベスト」と呼ぶ理由

だからこそ、本人が2022年を「ベスト」と呼んだことには重みがあるな、と思います。

外から見れば、2024年の54本塁打や50-50のインパクトは圧倒的。打撃成績だけを並べれば、2022年より華やかなシーズンはいくつもあります。でも、大谷さんの言葉はそこを見ていない。

稼働率」「体のしんどさ」。この二つをあえて口にしたのは、彼が自分の価値を、瞬間最大風速ではなく シーズン全体の稼働で測っているから ではないかと思います。投手として登板間隔を守り、打者として毎日ラインアップに入り、勝利のためにできる仕事を積み上げる――そのバランスが最も高い水準にあったのが、2022年だった。

本塁打数だけなら、2024年や2025年のほうが上に来ます。投手としての短期的なインパクトだけ切り取るなら、別の見方もできる。それでも本人が2022年を「ベスト」と呼ぶのは、投打のどちらか一方ではなく、チームへの貢献の総量を見ている からなんですね。

2022年を基準にするとは、単に過去の数字を懐かしむことじゃないんです。大谷さん自身が価値を置く「どれだけ投げ、どれだけ打ち、どれだけシーズンを支えたか」という物差しで、いまの大谷さんを見るということ

2026年、同じ線を引きなおそうとしている

そして2026年、彼はまた、投手としての比重を高めようとしています。

Cy Young賞は、突然出てきた目標ではないんですよね。高校時代の人生設計表にも、メジャーでのCy Young賞獲得は書き込まれていました。過去のインタビューでも、打者より投手としてのほうに伸びしろを感じている、という趣旨の発言を続けています。大谷さんの中で「投手としてどこまで上に行けるか」は、ずっと大きなテーマ であり続けているんです。

ESPN は2026年春、彼について「Cy Young賞は彼がまだ手にしていない唯一の主要タイトル」と書きました。ドジャースの Dalton Rushing も「彼は Cy Young賞を欲しがっている」と証言しています。

本人は表向きには「1年間健康でいること」を優先すると語っていますが、これは野心の否定ではないと思います。Cy Young賞を争うには、まずシーズンを通して投げ抜く必要がある ――そういう、現実的な理解に近い言葉なんじゃないかな、と。

だから2026年の見どころは、防御率や奪三振数だけじゃありません。

投手としての負荷を増やしたとき、打撃の強度がどこまで保たれるのか。2024年や2025年のような打撃寄りの爆発力とは違う条件の中で、どこまで総合力を積み上げられるのか。そこにあります。

5月時点で6登板37イニング、ERA 0.97。出だしは申し分ないんです。でも、シーズンは長い。投げる日々が増えれば、打席での出力にもきっと揺らぎは出ます。Barrel率や Hard-Hit率が2024年や2025年の水準を下回ったとしても、それだけで後退とは言えない。むしろ、その制約込みでどれだけ勝利に近づけるか が、2026年の大谷さんを見るうえで最も大切な視点になると思っています。

Lab Question

大谷さんが2022年を「ベスト」と呼ぶ理由は、本塁打数でも防御率でもない。投打を背負ったうえでシーズンを走り切った「総量」 にある――。それが、わたしのなかでの答えに近いものでした。

ここでひとつ、ずっと残っている問いがあります。

Question: 2026年の大谷さんが、2022年の総量を超えたとき、わたしたちはそれをどう呼ぶのでしょうか。

新しいベスト」と呼んでいいのか、それとも「2022年の続き」と呼ぶべきなのか。本塁打50本、防御率2点台、規定投球回到達――もしこの3つが同じ年に並んだなら、それは大谷さんキャリアで前例のない達成になります。でも本人は、その数字より「稼働率と体のしんどさ」を測ろうとするんですよね。だから、わたしたちが見届けるべきは派手な記録じゃなくて、シーズン終盤までマウンドに立ち続け、打席に入り続ける姿 なのかもしれません。

ひとつ、書き添えておきたいことがあります。2022年というシーズンは、2021年の大ブレイクを受けて、相手チームから厳しい攻め方を徹底された年 でもありました。打球の質を示す数字が前年から下がったのも、警戒されすぎて好球を振らせてもらえなかった側面が大きいと思っています。

そして2026年。ドジャースで ワールドシリーズ2連覇 を成し遂げ、もはや「不動のスーパースター」として迎えるシーズン。相手チームから受ける警戒の度合いは、2022年と構造的にとても似ていますし、むしろそれ以上と言ってもいいかもしれません。

だから2026年の数字が、表面的には2022年に届かなかったとしても――それを単純に「上下」では測れないんだと思います。より厳しく攻められる側に回ったうえで、それでも投げ続け、打席に立ち続けている姿。そこに2022年とは違う重みがあって、わたしたちが見届けるべきはたぶん、そちらのほうなんですよね。

2026年の大谷さんが、2022年を超えるのか。それを見届けるには、ホームランの数だけでも、防御率だけでも足りない。「2022年と比べてどうか」と問い続けること。その問いの中に、二刀流・大谷翔平の現在地が、きっといちばんくっきり浮かび上がります。

さて、今日の読み解きはここまで。
続きはまた、明日の数字が教えてくれるはずです。