大谷翔平の投球が「全盛期の Jacob deGrom」と並ぶ水準にある――そう報じたのは Sports Illustrated の Patrick McAvoy さん。《Shohei Ohtani's Dominance Reaches Peak Jacob deGrom Levels》 によると、7先発・ERA 0.82 は、112年の MLB 史でわずか6人しか到達していない領域なんです。
「全盛期 deGrom」は印象論ではなく、数字の話
「全盛期の deGrom みたい」という形容は、MLB ファンのあいだでは最大級の賛辞のひとつです。だからこそ、軽く使うと安っぽくなります。でも今回の比較は、印象論ではなく 同じ条件で並べた数字 の話になります。
MLB 公式の Sarah Langs さんが提示したのは、こういう条件です。
"Sub-0.85 ERA & 50+ strikeouts in first seven outings of season, since ER official in AL+NL (1913)"
「自責点が公式記録になった1913年以降、シーズン最初の7先発で ERA 0.85 未満かつ50奪三振以上」
この条件を満たした投手は、112年の歴史で 6人だけ だそうです。
年 | 投手 |
|---|---|
2026 | 大谷翔平 |
2021 | Jacob deGrom |
2009 | Johan Santana |
2009 | Zack Greinke |
1981 | Fernando Valenzuela |
1914 | Dutch Leonard |
MLB アナリストの Ben Verlander さんも、「大谷さんの ERA 0.82 は、2021年の deGrom が ERA 0.80 を記録して以来、7先発時点で最も低い」と指摘しています。最後にこの場所にいたのが deGrom だからこそ、凄みが感じられるお話です。
直接比較で見えるもの――そして、見えないもの
大谷さんと deGrom の7先発を、同じ表で並べてみます。
指標 | 大谷翔平 2026 | deGrom 2021 |
|---|---|---|
ERA | 0.82 | 0.80 |
投球回 | 44 | 45 |
勝敗 | 3勝2敗 | 3勝2敗 |
奪三振 | 50 | 74 |
与四球 | 11 | 7 |
K/BB | 4.5 | 10.6 |
ERA は 0.02 差。投球回もほぼ同じ。勝敗まで同じ。
ただ、奪三振と与四球を見ると、deGrom がいかに異次元だったか が分かります。74三振 / 7四球、K/BB が 10.6。これは「制球の精度」で言えば、ほとんど誰にも届かない領域です。大谷さんの 50三振 / 11四球(K/BB 4.5)も超一流ですが、deGrom の領域には届いていない。
つまり「全盛期 deGrom レベル」というのは、結果(ERA・失点抑止)の話でなら比較できる。でも 過程(三振 / 四球の効率)はまだ違う。ここを一緒にしないことが大事だと思いました。
ちなみに6人のうち2人は、その年にサイ・ヤング賞を獲っている
歴史的な系譜で気になるのは、この条件を満たした過去の5人がその後どうなったか、ですよね。
McAvoy さんの記事が触れているのは、Greinke(2009年)と Valenzuela(1981年)は、この基準に到達した年にサイ・ヤング賞を受賞している という事実です。Dutch Leonard(1914年)は当時サイ・ヤング賞が存在しなかったけれど、その年のリーグトップ ERA 0.96 を記録した(ただし MVP 投票は16位という、いまでは理解しがたい順位でした)。
そして deGrom(2021年)はどうだったか。15先発しかできなかった。怪我で離脱して、サイ・ヤング賞を逃した。
ここに、大谷さんが立たされている逆説があります。7先発時点の数字は deGrom と並んだ。でも deGrom の物語は「ここから先、投げ続けられるか」で止まった。「全盛期 deGrom」と並ぶということは、彼が越えられなかった壁の前に立つということ でもあるんですよね。
打撃不振、投球は史上クラス。この逆転をどう読むか
ここまで投球の話ばかりしてきましたが、忘れてはいけないのは打撃側の数字です。
打撃指標 | 2026(39試合時点) |
|---|---|
打率 | .240 |
OPS | .796 |
本塁打 | 7 |
四球 | 28 |
大谷さん基準で言えば、これは「不振」のレンジです。OPS .796 は堅実だけれど、過去3年の通年が1.000を超えていた人の数字としては物足りない。でも――その横で、投球は「112年に6人」の水準 にいる。
二刀流という言葉が、ここまで 両極端な顔 を見せたシーズンは、本人のキャリアの中でも記憶にないかもしれません。「打てない大谷さん」と「打たれない大谷さん」が同居している。McAvoy さんが「打撃の不振をカバーして余りある」と書いた意味は、たぶんそういうことです。
Lab Question
ERA 0.82、奪三振50。この数字は、112年で6人しか並んでいない。そして、その最後の1人だった deGrom は、最後まで投げきれませんでした。
Question: 「全盛期 deGrom レベル」というラベルが、大谷さんに貼られた今、本当に問われているのは何でしょうか。
数字の到達点ではなく、たぶん そこに居続けられるか なんだと思います。Greinke と Valenzuela は最後まで投げきってサイ・ヤング賞を獲り、deGrom は15先発で止まった。この基準に届いた投手の運命は、その後の登板数で分かれてきた。大谷さんの 44イニングは、まだ「7先発分」でしかない。残り20先発、120イニング、そのなかで、このERAがどこに着地するか――それは投球技術の問題というより、身体が持つかどうかの問題 に近いはずです。
deGrom の物語の続きを、大谷さんが書けるかどうか――2026年シーズンはそういう視点でも楽しめると思います。