ナ・リーグ サイ・ヤング賞争いで、大谷翔平が4番手に後退している――そう報じたのは Sports Illustrated の Karl Rasmussen 記者です(《NL Cy Young Race Sees Shohei Ohtani Slip as Innings-Eating Pitchers Take Charge》)。防御率 0.73、WHIP 0.84。数字だけ見れば首位級なのに、なぜ4番手なのでしょう。
「全先発投手のトップ」のはずの数字
まず、大谷さんがマウンドで残してきた数字を並べてみます。
指標 | 大谷さん(8先発時点) |
|---|---|
ERA | 0.73 |
WHIP | 0.84 |
投球回 | 49 |
奪三振 | 54 |
自責点 | 4 |
与四球 | 13 |
6回未満で降板した試合 | 1 |
Rasmussen 記者は、この数字について率直に書いています。「ERA と WHIP は全先発投手のトップに立つ数字」だと。ところが、続けてこう書きます。「ドジャースの試合数に対して投球回が足りず、現時点では投手部門のリーダーボードの規定に届いていない」。
つまり、ランキング表に名前が載らない。質では首位なのに、舞台に上がる資格そのものを満たしていない、ということなんですね。
週1登板という、本人ではどうにもならない設計
なぜ届かないのか。答えは、本人の調子ではなく、起用設計にあります。
ドジャースは大谷さんを 週1ペース、6〜7試合に1度 しかマウンドに送りません。通常の先発投手は中4日や中5日で回るので、5試合に1度の登板になります。この差は地味に見えて、シーズン換算では決定的に効いてきます。
"Already, he's logged two to three fewer starts than most of the league's top pitchers, and at this pace, Ohtani will end the season with 24 starts, potentially 25, barring a change in plans from the Dodgers."
「すでにトップ投手たちより2〜3先発少なく、このペースだとシーズン24〜25先発で終わる計算。ドジャースが方針を変えない限り」 — Karl Rasmussen / Sports Illustrated
24〜25先発。これが大谷さんがフルシーズンを駆け抜けたときに到達する上限です。一方、サンチェスやセールはおそらく30先発前後まで積み上げる。6先発の差は、約36〜40イニングの差 になります。
そして大谷さん本人は、その6試合分を取り返す手段を持っていません。中4日で投げたいと言っても、球団の健康管理計画がそれを許さない。31歳、二刀流、2022年以来初のフルシーズン投手復帰――条件がすべて「無理をさせない」方向に揃っているからです。
「量×質」を両立しているのは、誰か
では、大谷さんを押しのけて上位にいる投手たちは、どんな数字を積んでいるのか。並べてみると、構図がはっきりします。
投手 | ERA | 投球回 | 主な強み |
|---|---|---|---|
サンチェス(フィリーズ) | 1.62 | 72⅓ | fWAR 2.8(全投手1位)、5月は32回無失点・WHIP 0.69 |
ミシオロウスキー(ブルワーズ) | 1.83 | 64 | K/9 14.9(MLB1位)、5月の被OPS .258 |
セール(ブレーブス) | 1.89 | 62 | 37歳、WHIP 0.87(MLB4位) |
バーンズ(レッズ) | 1.83 | 59 | NL WPA 首位、23歳 |
大谷さん(ドジャース) | 0.73 | 49 | ERA・WHIP 首位級、ただし規定未到達 |
ERA だけ見ると、大谷さんは1点近く突き抜けています。でも、投球回はサンチェスより 23⅓回少ない。サンチェスは5月、4先発で32回投げて1点も許していません。「量」を積み上げながら「質」も最高水準で維持している――これが、Rasmussen 記者が彼を最有力候補に挙げる理由です。
ミシオロウスキーも似た構造で、K/9 14.9 という空振り能力を、64イニングという量に乗せて見せている。質を量で裏打ちしている。
大谷さんに足りないのは、たぶん「日数」だけ
ここで興味深いのは、大谷さん自身の登板内容には、ほとんど穴がないということです。6回未満で降板した試合は 8先発でたった1度。許した自責点は計4点。彼は「量」を放棄しているのではなく、登板した日には深く投げています。
つまり、足りないのは「1試合あたりの量」ではなく、「登板する日の数」そのもの。これは技術や体調の問題ではなく、球団が引いたカレンダー の問題です。
そして、このカレンダーが変わる可能性はほぼないと思うんですよね。ドジャースは大谷さんを10月(ポストシーズン)まで持たせるために、レギュラーシーズンの登板間隔を空けている。サイ・ヤング賞という個人タイトルを取りに行くために中4日に戻す、という選択肢は、おそらく球団のシナリオには入っていない。
"He's pitching deeper into games, having logged only one start of less than six innings, but the fact that he's not taking the mound as often as his competitors has already begun to hinder him in the Cy Young race."
「試合を深くまで投げ抜いており、6回未満で降板した試合は1度だけ。それでも登板頻度の少なさが、すでにサイ・ヤング賞レースで足を引っ張り始めている」 — Karl Rasmussen / Sports Illustrated
質では首位、量では4番手。この記事が映し出しているのは、大谷さんがサイ・ヤング賞に届かないとすれば、それは投げ負けたからではなく、そもそも投げる機会を与えられていないから だ、という静かな事実です。