大谷翔平さんがアリゾナ・ダイヤモンドバックスから放った2点三塁打のボールが、「認証付き記念品」として 1万ドル で売り出されている。販売元は、その三塁打を打たれた側のアリゾナ自身。DodgersWay の Katrina Stebbins が、この奇妙な商売を 5月の記事で取り上げています。
売っているのは、自分たちが負けた試合のボール
整理すると、こういう構図なんですね。
ドジャース vs ダイヤモンドバックスの試合で、大谷さんはアリゾナ先発の Michael Soroka から2点三塁打を打った。試合はアリゾナの負け。ところがアリゾナの球団は、その三塁打のボールをわざわざ確保し、オーセンティック認証をつけて 10,000ドルで販売し始めた――というのが、The Sporting Tribune の Fred Cervantes が水曜日に指摘した一件です。
販売条件はこうなっています。
"32% of all sales are donated to the D-Backs Foundation, while the remaining 68% stays with the team."
「売上の32%は D-Backs 財団に寄付され、残りの68%は球団が保有する」
つまり 1万ドルのうち、財団に渡るのは 3,200ドル。残りの 約 6,800ドルは球団の懐に入る。Stebbins が地の文で書いている通り、「寄付は3分の1未満」です。敵チームのスター選手が、自分たちを負かしたプレーで打ったボール――それを意図的に回収し、それで稼ぐ。しかも投げたのは、自軍のエース格である Soroka。
"Ohtani hit that triple off of Arizona starter Michael Soroka; we wonder what he thinks about this."
「あの三塁打を打たれたのはアリゾナの先発 Michael Soroka。彼がこれをどう思っているか、気になる」
この一文、わたしはちょっと笑ってしまいました。打たれた投手のことを心配する視点が、ふっと差し込まれていて。
「ドジャースが野球を壊している」と言ってきたのは、どちら側だったか
ここで思い出さないといけないのが、アリゾナとドジャースのこれまでの距離感です。
アリゾナは 2023年の NLDS でドジャースをポストシーズンから引きずり下ろした側で、その後、Clayton Kershaw が打ち込まれた場面の額入り写真を販売したという前科があります。今回の三塁打ボール販売は、その延長線上にある「ドジャース商法」の最新形なんですね。
そして、ここ数年のリーグ全体に流れる空気として、「ドジャースは金で全部買って、野球を壊している」という批判があります。大谷翔平、山本由伸、佐々木朗希――補強のたびに、対戦相手のファンや一部メディアから出てくる定番のフレーズです。
ところが、その「ドジャースが野球を壊している」と言いたい側の球団が、ドジャースのスター選手のボール1個で 6,800ドルを稼ごうとしている。Stebbins の皮肉は、ここに突き刺さります。
"So the Diamondbacks intentionally salvaged a ball an opposing player hit ... in a game Arizona went on to lose ... and are giving less than 1/3 of it to charity? What was all that about the Dodgers ruining baseball?"
「敵選手が打ったボールを、自軍が負けた試合からわざわざ回収して、寄付は3分の1未満? ドジャースが野球を壊しているという話は、いったいどこへ行ったのでしょう?」
批判している側が、批判している対象の人気で稼いでいる。この自己矛盾は、もうユーモアの域です。
1個 1万ドルのボールに乗っている、大谷翔平という打席そのもの
ただ、アリゾナのマーケティング担当者を完全に責めるのも難しい、と Stebbins は書いています。これが奇妙に見えることは、ほぼ確実に分かっていたはずだ、と。それでもボール1個で 7,000ドル近くが入るなら、彼らにとって何の問題があるだろう、と。
実際、ドジャース人気はリーグ全体の経済を押し上げている側面があります。
項目 | 内容 |
|---|---|
三塁打ボール販売価格 | $10,000 |
アリゾナ球団取り分(68%) | 約 $6,800 |
D-Backs Foundation 寄付(32%) | $3,200 |
2025WS〜2026開幕の Nike ジャージ売上 TOP | ドジャース選手が 4人 ランクイン |
過去の類似事例 | 2023 NLDS Kershaw 陥落写真の額装販売 |
ドジャース来訪時の敵地チケット価格は上がり、対戦相手球団のショップでも来訪時のグッズ売上はかなりの額に達する。その流れの最先端に、今回の「1個 1万ドルのボール」がある。
そして肝心の中身を見ると、このボールが背負っているのは、ただの記念品ではないんですね。2026年の大谷さんは、9月末時点で 打率 .302、OPS .939、HR 11本、投手としても 61イニング・ERA 0.74 という、二刀流の年間ハイライトをずっと更新し続けている打席のひとつから飛び出した三塁打です。1個 1万ドルの値札は、市場が大谷翔平という選手の打席を、それくらいの価値で扱っているという事実の可視化でもあります。
Stebbins は、この一件をこう締めくくっています。
"A rising tide lifts all boats, as the saying goes, and the Diamondbacks have all but proven that with this stunt."
「『上げ潮はすべての船を持ち上げる』という諺の通り、ダイヤモンドバックスはこの一件で、それをまさに証明してしまった」 — Katrina Stebbins / DodgersWay
ドジャースが野球を壊しているという物語と、その人気で稼ぐ船に乗りたい球団の現実――どちらが本当の景色なのかは、1万ドルの値札がいちばん静かに答えている気がします。