Shohei Daily Lab

大谷翔平、“カーブ打ち”に見る復活の兆し — 数字が示す、出力の違い

2026/7/25


この記事は約 8 分で読めます。


対右投手のカーブに対する大谷翔平の成績。2024年から2026年にかけて、強い打球率が53%から12%へ急落。
対右投手・カーブ系(2024→2026)。空振り率はほぼ一定なのに、強い打球(100mph以上)率はカーブだけ53%→12%へ急落。速球(FF)は維持。

2026年前半、対右投手のカーブ系(カーブ・ナックルカーブ)に対する大谷さんのwOBAは.235にとどまっています。 2024年は.535、2025年は.416。長打は両年とも6本ありましたが、今季はゼロ(安打5本は、すべて単打)です。

対右投手・カーブ系に対する大谷さんの成績。今季は長打がゼロに。
wOBA長打
2024.5356本
2025.4166本
2026.2350本

2年前まで、大谷さんへのカーブは、失投すればホームランになる球でした。それが今季は、相手バッテリーが最も安全に投げられる球になっています。 気になったので、公開データ(Statcast)で一つずつ確かめてみました。

※ この記事の球種・空振り・打球速度・バットスピードなどの計測値は、すべてMLB公式のStatcast(Baseball Savant)で公開されているデータを使っています。 対象は対右投手のカーブ系(カーブ+ナックルカーブ)、2026年は7/21時点です。

空振り率は、変わっていない

「今年はカーブでの空振りが増えたのではないか」——まず、そう疑いました。ですが、これはすぐに否定されます。 スイングに対する空振り率は、3年間、ほとんど変わっていません。

対右・カーブ系の空振り率(スイングに対する割合)。3年間ほぼ一定です。
カーブの空振り率
202440%
202543%
202641%

カーブに4割空振りするのは、54本の年も55本の年も同じでした。反応や対応力が落ちた形跡はありません。 変わっていたのは、バットに当てた後の結果のほうでした。

変わったのは、打球の質

カーブを打った打球のうち、100mph以上を記録した割合を、速球(フォーシーム)と並べてみます。

強い打球(打球速度100mph以上)の割合。カーブだけが53%→12%へ急落し、速球はほぼ維持されています。
vsカーブvs速球(FF)
202453%50%
202546%47%
202612%44%

速球に対する強い打球は、ほぼ維持されています。減ったのはカーブだけで、53%から12%への急落です。 同じ打者が、同じシーズンに、速球は例年どおり打ち返し、カーブだけ飛ばせなくなっている。 この「カーブだけが落ちた」という偏りこそが、今回の入り口になります。

2024年の数字が、手がかりだった

鍵は2024年のデータにありました。この年、大谷さんがカーブを打った打球の平均速度は97.0mph。 速球を打った打球(96.5mph)と、ほとんど同じです。

これは、リーグの標準から大きく外れた数字です。2026年のリーグ全体では、カーブの打球平均は87.4mph、速球は90.6mph。 80mph前後で来るカーブは、95mphの速球より3mphほど遅い打球にしかならないのが普通なのです。

打球の平均速度(mph)。2024年の大谷さんは、カーブをリーグ平均+10mph、しかも自分の速球と変わらない速さで打ち返していました。
打球の平均速度vsカーブvs速球(FF)
大谷さん(2024)97.096.5
リーグ平均(2026)87.490.6

大谷さんは2024年、リーグ平均を10mphも上回る速さでカーブを打ち返し、しかもその速さは自分のvs速球の打球(96.5mph)と変わりませんでした。

では、なぜ普通はカーブの打球が遅いのか。ここに、物理的な理由がありました。

打球速度の“内訳”

バットとボールの衝突では、打球速度はおおよそ次の式で決まることが知られています(反発効率q≈0.2の衝突モデル)。

打球速度 ≈ 0.2 × 投球速度 + 1.2 × バットスピード

打球速度の大部分はバットスピードで決まりますが、投球の速度も、係数0.2で加算されます。

投球速度が打球に足す“上乗せ”(球速×0.2)。速球のほうが約3mph大きく、相手の球威を反発力として得られます。
球種投球速度打球への上乗せ(×0.2)
速球(FF)95mph+約19mph
カーブ80mph+約16mph

速球のほうが、カーブより3mphほど“上乗せ”が大きい——同じ強さで振っても、速球は相手の球威を反発力として多く得られる、ということです。

この式は、実際のデータでも確かめられます。2026年のリーグ全打球73,689球(バット計測あり)を解析すると、投球速度の係数は0.19。 理論値の0.2とほぼ一致しました。さきほどの球種別平均の差(90.6−87.4=3.2mph)も、球速差15mph×0.2=3mphで、そのまま説明がつきます。

整理すると、速球の打球速度には相手の球速(の反発)による上乗せが含まれますが、カーブにはそれがほとんどありません。カーブの打球速度は、打者自身の出力に強く左右される——これが、その仕組みです。

主因は、バットスピードの低下だった

ここまでの話で、冒頭の謎は説明がつきます。

過去コラム「大谷翔平のホームランはなぜ減ったのか」で見たとおり、今季の大谷さんは投打の両立のため、普段のスイング出力を意図的に抑えています。 カーブを振ったときのバットスピードも、2024年から今季にかけて下がっていました。ただ、これは速球でも同じです。

スイング時の平均バットスピード(対右・マイル)。下がり幅はカーブも速球もほぼ同じ(約2mph)です。
スイング時バットスピード20242026
vsカーブ75.472.9−2.5
vs速球(FF)75.373.4−1.9

下がり幅は、カーブも速球もほぼ同じ(約2mph)。にもかかわらず、速球であれば球速の上乗せがこの低下を補い、強い打球率は44%で踏みとどまりました。 一方、上乗せのないカーブでは、出力の低下がそのまま打球に表れます。強い打球率53%→12%の急落は、出力を抑えた影響が、それを最も受けやすいカーブに、真っ先に表れたものと読めます。

念のため、スイング角度の影響も見てみました。低めの球に対するアタックアングルは今季18.8度で、2024年(17.3度)をむしろ上回っており、 角度の低下は主因ではありません。また、この傾向は膝を痛めた6月12日の前後で変わっておらず、故障のせいでもない。 シーズンを通じたスイングアプローチの帰結、と見るのが自然です。

カーブという球種の性質

この構造は、リーグの歴史とも重なります。2010年代後半、フライボール革命への対抗として、メジャーでカーブの使用が増えました。 理由として挙げられてきたのは、①投球速度の寄与が小さく、当てられても打球が弱い、②高めの速球と同じ出どころから縦に割れ、軌道を重ねられる、 ③アッパー軌道のスイング面と縦の変化が交差し、芯を外しやすい——の3点で、いずれも今回の話と同じ物理に根ざしています。

カーブは、打者の出力を無効化しやすい球種なのです。それを自分の出力だけで打ち返していた2024年の大谷さんのほうが、 むしろ例外だった——そう言うべきなのかもしれません。

“カーブ打ち”が示す、復活のサイン

最後に、この分析から見えてくることを整理します。

投球速度の上乗せがない以上、カーブの打球速度は、バットスピードの変化に最も敏感に反応します。 裏を返せば、出力が1〜2mph戻ったとき、その回復が最初に、そして最も分かりやすい形で表れるのも、カーブの打球だということになります。

そして前回のコラム「膝を痛めた“後”に、スイング速度を上げていた」で確かめたとおり、膝を痛めたあとの大谷さんのバットスピードは、すでに上向いています。 ホームランを打ったときのスイング速度は打者に専念していた2024年に並ぶ水準まで戻り、低めをすくい上げる角度も、上がり始めました。

後半戦、大谷さんへのカーブが長打になることが増えれば、それは出力がすっかり戻ったことを示す、いちばん分かりやすいサインになります。 相手バッテリーにとってカーブが「安全な球」ではなくなるのはいつか。対カーブの打球速度を、後半戦のポイントとして注目したいと思います。

編集 @shoheidailylab


データ出典: Baseball Savant (Statcast) 2024–2026 / 自前集計(tools/pitch_grade)。 対象は対右投手のカーブ系(カーブ+ナックルカーブ)。リーグ回帰は2026年の全打球(バット計測あり73,689球)。 打球速度の式は衝突モデル(反発効率q≈0.2)の近似。数値は2026/7/21時点。

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